FIP(猫伝染性腹膜炎)の症状と原因・治療について|獣医師が解説|大阪府和泉市のいぶきの動物病院2024/02/22
大阪府和泉市、堺市、大阪市、岸和田市、泉大津市、和歌山県の皆さまこんにちは。
大阪府和泉市のいぶきの動物病院、院長の島田です。
今回は猫伝染性腹膜炎(FIP)について解説いたします。
1.FIP(猫伝染性腹膜炎)とは?
猫コロナウイルスが、原因となり、腹部の臓器を包んでいる腹膜や目や神経に炎症を起こす疾患です。元来の猫のコロナウイルスは腸などに感染しますが、病原性は低く大きな症状を起こすことはありません。しかしこの猫の腸コロナウイルスが何らかの原因で体内で突然変位を起こし、非常に病原性の高い猫伝染性腹膜炎ウイルス(コロナウイルス)となることで引き起こされます。研究の結果、変位の原因など一部解明されてきつつありますが、今のところ全容解明には至っていません。仔猫で発症することが多く、下記に示すように2つのタイプに分類される症状を呈し、過去には発症すると致死率100%と言われていた、恐い感染症です。現在は早期発見し適正な治療を実施すれば、治る可能性があります。
2.FIP(猫伝染性腹膜炎)の2つのタイプ、診断方法
①ウエットタイプ(浸出型):胸部や腹部の臓器を包んでいる胸膜、腹膜、心膜などに発症します。血管に炎症を起こすことで周囲に体液が浸出し、胸水や腹水を引き起こします。重度になるとたくさん腹水が貯留し、お腹が膨らんだ状態になります。
②ドライタイプ(非浸出型):体の様々なところに、炎症を伴う肉芽(しこり)を形成します。肉芽の発生する場所に応じた症状を引き起こします。
診断はタイプに応じて、臨床症状と共に、胸水腹水や血液または、肉芽(しこり)などを採取し、検査センターで抗体価やPCR検査(遺伝子反応の分析)を行う事で診断します。
3.FIP(猫伝染性腹膜炎)でよくみられる初期症状とは?
どちらのタイプも、元気食欲の消失、発熱を引き起こします。またそれに伴い、黄疸や貧血体重減少などが見られます。タイプによっては、腹水による腹部膨満。胸水による呼吸困難。ぶどう膜炎(目の症状)による、目の充血や角膜内部の変色などが認められます。
4.FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療方法について
①抗ウイルス薬:GS製剤、レムデシビル、モルヌラビルなど。ウイルスそのものの増殖を抑えます。※残念ながら、国内でFIPの治療を目的として承認された動物用医薬品は現時点では存在しません。
②抗炎症剤:ステロイドなど。血管炎や全身性の肉芽腫性炎症に対し投与を行います。
③輸液など対症療法:脱水やその他の症状の積極的緩和を行います。
5. 当院のFIP治療について
新しい選択肢としてモルヌラビルの内服による治療を実施しています。
従来の治療法の最大の問題点であった高額な治療費のため、実施困難な猫たちを多く診てきました。モルヌラビルによる治療法は、従来法にくらべてかなり安価に治療を実施可能です。最近すこしづつ知見が得られつつありますが、長期投与した安全性など一部不明な点もあるため、その使用についてはよくご相談させて頂いた上で実施させていただきます。
FIPやその疑いでお困りの方、是非一度ご相談下さい。
※追記 2024年5月5日
当ブログの公開以降も多数のご相談、治療を実施させていただき症状の改善、寛解事例を経験しております。
より良い治療を行う目的で、重症例や特に神経症状を伴うドライタイプへも対応できるよう『注射薬のレムデシビル』も取り扱っております。
レムデシベルは、COVID-19のパンデミックで有名となったヒトコロナウイルス感染症に対する治療薬です。投与後体内で代謝され、FIPに高い治療効果が報告されているGS-441524になることが分かっています。
残念ながら、薬剤価格が高額であることがデメリットですが、症状に応じてご提案させていただいております。(注射剤1本に対しおよそ15万円程度の治療費がかかります。これは体重や症状によりますが、2-4回分の注射に相当します。)